東京慈恵会医科大学 分子生理学講座では、コーヒーに多く含まれるポリフェノールと脳卒中の関係について研究しています。
脳血管障害には血管が破れて生じる出血性脳血管障害(脳内出血とくも膜下出血)と血管が閉塞する脳梗塞および、血管の狭窄により血流が悪くなってしまう虚血性の障害とがあります。
それぞれの疾患に応じた治療法があり、適切な診断と早急な治療が予後に深くかかわっているのですが、なかでも脳動脈の血流量が通常より低下するとさまざまな症状が出現しますが、短時間で元に戻ればそれらの神経症状は改善します。
なぜなら、虚血状態に陥ると閉塞した血管の中心部の細胞は壊死するものの、その周辺部の細胞はまだ生きているので血流が早期に再開することによって回復するためです。
この領域を「ペナンブラ」と呼ぶ。
今回紹介するコーヒーと脳卒中、とくに脳梗塞に関する研究は、このペナンブラにかかわる話です。
今回の研究にかかわる重要なファクターは一酸化窒素(NO)である。NOは体内のアルギニンというアミノ酸からNOを合成する酵素により産生される気体の生理活性物質で、NOを合成する酵素は細胞質でカルシウム濃度が上昇すると活性化されます。
その一方、NOが過剰につくられると脳梗塞や側頭葉てんかん、アルツハイマー病などを引き起こす可能性が高くなります。
リアノジン受容体をもつ細胞ともたない細胞を比較することで「NOはリアノジン受容体を介してカルシウムの放出を引き起こす」という新しいシグナル伝達のメカニズム「NO-induced Ca2+ release」(略称・NICR)を発見した。NICRこそ今回の研究につながるきっかけでした。
脳血管障害のメカニズムは、
(1) 脳の血流が滞る虚血が起きる。
(2) 神経伝達物質のグルタミン酸が放出される。
(3) グルタミン酸受容体からカルシウムが流入してくる。
(4) 細胞質のカルシウム濃度が高まる。
(5) NOをつくる酵素が活性化してNOが産生される。
(6) NOが神経細胞死を引き起こす。
上記のメカニズムで神経細胞死した細胞に、コーヒーポリフェノールのクロロゲン酸と脳の血流が虚血になると放出されるグルタミン酸を投与すると、死細胞が減るのが確認出来た。
1日につきコーヒー1~2杯くらいの量のコーヒーに含まれるクロロゲン酸(ポリフェノール)は、グルタミン酸によるカルシウム流入を抑制することにより、神経細胞死を抑制し、また神経細胞の突起の形態保護作用がある可能性が明らかになった。
今後の目標は、血流が再開すれば回復する領域「ペナンブラ」を壊死から救う物質を探すこと。
生きている動物で初期の脳梗塞にクロロゲン酸が効くかどうかを調べていくのだそうです。
今後の研究に期待ですね!