日本人がもっとも恐ろしいと思う病気。それはきっとがんだろう。何気なく飲んでいるコーヒーには、がん細胞の活動を抑える働きがあるという。

がんは老化とともに必然的に発生する病気とされている。ところが、食生活やライフスタイルを改善することによって、たとえ発がんリスクの高い遺伝素因や基礎疾患をもっていたとしても、がんは予防できるともいわれている。それは近年の医療の発達によって明らかになってきたことだ。

細胞ががん化する過程と、悪性化していく過程におけるコーヒーの作用について本格的に調べはじめる矢ヶ崎氏。動物実験を開始するにあたり、コーヒー試料は上記のように市販のインスタントコーヒー粉末を用いた。それによって、抽出効率や成分の違いを気にすることなく、再現性の高い実験が行えた。

また、肝臓がん(肝がん)の細胞は国産の呑龍系(Donryu strain)ラット(注1)に由来するがん細胞「AH109A」を使用。細胞培養系でもよく増殖するうえ、呑龍系ラットの腹腔内や皮下に戻すと盛んに増える性質がある。

まず、インスタントコーヒー粉末をAH109Aに直接添加した。平たく言うと「ふりかけた」のだ。すると、AH109Aの浸潤も増殖も両方抑える効果があることがわかった。(図3)

※クリックで拡大します。

この結果を受けて、矢ヶ崎氏はもう1つ実験を行った。それはより生体に近いやり方である。
「細胞にコーヒーをふりかけたら、たしかに浸潤も増殖も抑えました。しかし、実際には動物の体の中で細胞にコーヒーが直接ふれることはありません。ですから有効成分が体の中に入って、活性を保った状態で移行するのかどうかを調べたのです」

この種の細胞培養実験では牛の血清を使うのだが、その代わりに「コーヒーを飲ませたラットの血清」を培地に入れて増殖を抑えるかどうかを見た。

まず、ひと晩絶食させた呑龍系ラットにインスタントコーヒーの粉末を溶かした水溶液を飲ませて、2時間後に採血して血清を取り出す。その血清をラットの細胞に添加した。

実は、消化管を通ると腸や肝臓で代謝を受けて壊されてしまったり、有効な構造が隠されたりして効かなくなるケースもあるのだが、先の実験と同じように浸潤も増殖も抑えたのだ。(図4)

※クリックで拡大します。

「ラットへの投与量125㎎/㎏を人間に適用できると仮定して、体重60㎏の人間で7.5g。コーヒーでおよそ2〜3杯分ですから、日常的に飲める量でしょう」

ラットを使って、コーヒーという食品ががんに効くことを確かめた。そこにはなにかしらの有効成分があるはずだが、この段階ではまだわからない。
矢ヶ崎氏は「では、コーヒーのどの成分が有効なのか」と考え、次の実験に進んだ。

悪さをする活性酸素を、コーヒーが食べてしまう?

コーヒーに含まれる主な成分としては、カフェイン(10〜20g/L)、キナ酸(3.2〜8.7g/L)、トリゴネリン(3〜10g/L)、クロロゲン酸(0.02〜0.1g/L)、カフェ酸、クエン酸(1.8〜8.7g/L)、リンゴ酸(1.9〜3.9g/L)などがある。このなかで矢ヶ崎氏が最初に着目したのはクロロゲン酸だ。次いでカフェ酸とキナ酸。なぜならカフェ酸とキナ酸が結合したポリフェノール化合物がクロロゲン酸だからだ。

実験の結果、クロロゲン酸、カフェ酸、キナ酸は、肝がん細胞の増殖は抑制しないけれど浸潤は抑制することがわかった。ただし、クロロゲン酸を直接添加すると抑制効果は高いが、クロロゲン酸の構成要素であるカフェ酸、キナ酸を添加してもクロロゲン酸ほどの効果はなかった。

次に、浸潤を抑制するメカニズムを調べてみた。(1)「なにもしない」、(2)「活性酸素を入れたとき」、(3)「活性酸素とコーヒーを一緒に入れたとき」という3通りの方法で、細胞の中の活性酸素の量を測定したのだ。

「活性酸素には浸潤能(注2)を上げる性質があります。そこで培地に活性酸素を投入して、浸潤する細胞数を調べました。すると活性酸素で上がった浸潤能が、インスタントコーヒーを添加するとグッと下がったのです」

簡単にいうと、活性酸素とコーヒーを一緒に添加するともとの状態に戻るということは、つまりコーヒーのある種の成分が活性酸素を「食って」しまっていると考えるのが自然だ。

この結果からコーヒーには抗酸化能(注3)があって、活性酸素を捕捉するから浸潤を抑制するのではないかと考えられる。

培地にインスタントコーヒーを直接添加した場合と、インスタントコーヒーの粉末を溶かした水溶液を飲ませて取り出した血清を細胞に添加した場合と2通りの実験を行ったが、どちらも結果は同じだった。

また、トリゴネリンにも浸潤を抑える効果があることがわかっている。ただし、トリゴネリンの場合は、抗酸化能以外のメカニズムが働いているようだ。また、浸潤を抑える成分は確定できたものの、増殖の抑制成分はまだわかっていない。

 

これらの研究結果は細胞レベルとラットを使った動物実験に基づいたもの。したがってすぐに人間へ転用できる…とはならないが、日々摂りこんでいる食品の中からがんやそのほかの病気を二次予防する物質を見つけようという研究には、大きな意味がある。


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