「コーヒーは胃潰瘍に悪い影響を及ぼす」という説がありますが、ほんとうにそうなのか?人間ドックとの連携でデータを解析した最新の研究成果を紹介します。
胃潰瘍は極度の緊張、あるいは強いストレスがかかり、自律神経を介して胃酸の分泌を高めることが大きな原因で、胃酸のバランスが崩れ胃の粘膜が胃酸で消化されることで潰瘍が出来ます。
東京大学医学部附属病院の消化器内科で胃腸を専門に研究している山道信毅助教によると、ストレス等体内の環境の変化によって自分(胃)を攻撃するようになった胃酸、カフェインには胃酸の分泌を促す性質がある。
そのため、カフェインを多く含むコーヒーは「潰瘍を悪化させる」とこれまでは考えられていました。
しかし、山道信毅助教は「ほんとうにコーヒーは悪影響を及ぼすのだろうか?」と疑問に思っていたそうです。
山道先生曰く、「広く知られていることですが、コーヒーにはリラックス効果がありますね。リラックスは緊張やストレスの逆の作用、つまり胃酸の分泌を抑えることにつながります」
カフェインは胃酸の分泌を促す。だから潰瘍には危険――という考え方は短絡的ではないかと、山道さんは考えたのだ。
「コーヒーにはポリフェノールなど体によい働きをする物質も含まれています。ですからカフェインだけを取り出して考えるのではなく、コーヒーを総合的に考えて、最終的にどういう影響を及ぼしているのかを調べたいと思いました」
契機となったのは大規模なピロリ菌の研究の一環として、健康な成人およそ2万人のデータを扱う責任者になったことで、「2万人のうち、半数近くの人にコーヒーの飲用について細かく聞いていたのです」
調査の結果、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症のすべてにおいて、「疾患とコーヒー摂取の因果関係」は認められなかった。
「コーヒーは、たしかに胃酸を増やす働きをしますが、逆に心身をリラックスさせる効果もあります。
総合的にみると、コーヒーが酸関連疾患として頻度の高い上記4疾患に与える影響は今回の疫学的な解析では認められないという結論になりました」。
今回の調査でコーヒーが悪い影響を及ぼすわけではないことがわかりました。
ただし今回は『3杯以上』という区分で聞いています。
1日にコーヒーを10杯以上飲む人のリスクまでは調べられていませんが、1日3~4杯程度であれば、それほど気にする必要はないでしょう」と山道助教は笑う。
現代人特有のストレスを軽減するために、ほどほどの量のコーヒーを飲む。これが正しい楽しみ方といえそうだ。