コーヒーを淹れたときの、あのふわっとした香りが好きな人はきっと多いはず。その独特な香りには、人間の脳に働きかける二つの効果があることが分かった。
コーヒーショップに足を踏み入れたときの、なんともいえない香り。自分でコーヒーをドリップするときに湯気とともに立ちのぼるあの匂い……。
コーヒー好きならずとも、心地よい気持ちになるだろう。
そのコーヒーの香りが、人の脳に影響を与えることが分かった。
それもコーヒー豆の種類によって効果が異なるという。
5分間隔でα波を測定し、リラックス効果を検証。
食べ物の中でも好き嫌いが分かれるコーヒーや酒といった嗜好品は『好き』か『嫌い』に分かれますが、これは『香り』の領域なのです。
実験は、20代の女性10人に5分間隔で6種類のコーヒーの香りを数十秒間ずつかいでもらい、その間の脳波を分析するというもの。コーヒー豆はブラジルサントス、グァテマラ、ブルーマウンテン、モカマタリ、マンデリン、ハワイ・コナの6種類。比較対照のために無臭の蒸留水も用意。それぞれ中挽きした豆を90℃の熱湯で抽出した。
α波の出現量が多いのはグァテマラとブルーマウンテン。
マンデリンやハワイ・コナは少ない。コーヒーの種類によって、リラックスできるものとできないものがあることが分かる。
実験結果は意外なものだった。
上の図を見てほしい。暖色の部分、つまり赤色や茶色がα波の量が多いことを表している。α波が最も多く出現したのはグァテマラとブルーマウンテン。この2種の香りにはリラックス効果があることが立証されたのだ。
ところが、マンデリンやハワイ・コナではα波があまり見られなかった。無臭の蒸留水と比べても少ない。つまり、コーヒーの香りすべてにリラックス効果があるわけではなく、豆によって度合いが異なることが明らかになった。
「同じコーヒーで、これほど結果に差が出るとは予想していませんでした。理由は分かりません。あるメーカーの協力を得て、コーヒーの成分を分析しましたが、少なくとも800種類もの成分がある。ところが、香りを構成するのは有力な成分ではなく、微量な成分らしいのです。つまり、800の成分の混じり具合によって、香りは大きく変わるのです」
これほどはっきりした差異がありながら、科学的には原因がつきとめられなかった。しかし、実験で、コーヒーの香りが秘めるもう一つの効果が明らかになる。
豆の特徴をよく理解して、用途にあわせて楽しもう。
次の研究で、α波ではなく「P300」という脳波に着目して実験を行った。
P300とは、人の集中度を図る指標のこと。正しくは「情報処理能力」と呼ぶ。物事を見極めたり聞き分けたりするときに脳は活発に活動するが、そのときに出現する脳波がP300である。コーヒーの香りによって、P300がどう変わるのかを調べた。
特に注目していたのは、P300が出現するまでの「潜時(せんじ)」。潜時とはヘッドホンを通して高い音が聞こえてきてから、脳が「高い音が聞こえた」と認知するまでの時間を指す。つまり「情報処理の速度」である。
結果は上の図の通り。α波の実験とは逆の傾向を示した。
潜時が短く、P300が早く出現したのはブラジルサントスやマンデリン、ハワイ・コナだった。ブラジルサントスやマンデリン、ハワイ・コナは脳の働きを活性化して、情報処理のスピードを高める効果があることが分かった。ところが、最初の実験でα波が多く出現し、リラックス効果が高いと認められたグァテマラやブルーマウンテンは、P300の出現が遅かったのだ。