コーヒー豆は火で煎ることではじめて、色は淡緑色から濃い茶褐色へと変化し、華やかな芳香とほろ苦い風味が生まれます。そもそもコーヒーは、生豆を煮たスープが飲まれたり、コーヒーの実ごと潰して団子に調理したものが食べられていたようで、焙煎の手法による琥珀色のコーヒーが飲まれはじめたのは13世紀ごろといわれています。
浅煎りの状態では酸味が強く、深煎りになるにつれ酸味は少なくなり、苦味が増していきます。ただし、豆によっては深く煎ってもずっと酸味が残るものもありますし、熱量、焙煎時間、生豆の水分含有量で酸味と苦味のバランスは複雑に変わります。そういった特性を考えながら、最高の味と香りを引き出していくことが、焙煎の醍醐味でもあります。
コーヒーの酸味は、熱によって成分の化学反応が起きて酸味の量が増えたり減ったりしています。例えば、クロロゲン酸が分解してキナ酸やコーヒー酸が、少糖類が分解して酢酸やギ酸、乳酸が生成される、といったように。しかし焙煎が進むと、ある段階から今度は酸の熱分解が始まり、酸味は減っていきます。
現在、経済流通しているコーヒーのほとんどは、3大原種のうちの、カネフォラ種(ロブスタ種とも呼ぶ)とアラビカ種の2種ですが、キレのある酸味(揮発性のある酸味成分)の元となる少糖類は、アラビカ種のほうが多く含まれています。
また、コーヒーを何杯か作り置きしておいて、後から飲んだら、酸味が強くなった気がしたことはないでしょうか。これは、キナ酸にはじめから酸味を示すものと、湯に浸かってからゆっくり酸味を示すものがあるため、淹れてから酸味が増えるのです。
苦味のほとんどは、主に糖質とアミノ酸とクロロゲン酸から作られる褐色色素(コーヒーの茶色)によるものです。ですから、深煎りになるほど褐色の色素は大きくなり、苦味は強く重たくなります。
コーヒーの苦味=カフェインというイメージがありますが、意外にも味としての影響は1割程度と言われています。ですから、ノンカフェインのコーヒーであっても十分な苦さが残るのです。
また、アミノ酸やタンパク質が加熱されることでも、苦味成分が生成されます。これはジケトピペラジン類という物質で、ココアにも含まれているそうです。
焙煎によって作られる香りの成分はおよそ650種類ほどが知られています。「豆」を構成する成分としてはごく微量ですが、「コーヒー」を形づくる意味ではとても大きな役割を果たしています。
産地によって香りが違うのは、特有の成分の有る無しではなく、香味成分の元となる、少糖、アミノ酸、クロロゲン酸など、約40種類の成分による微妙なバランスによって、決まると考えられています。
また、焙煎が深くなるほど増えものと減るものがあり、この総量とバランスが香味を決めているのです。
【増える】
スモークフレーバー(フェノール類)、刺激臭(ピロール類、ピリジン類)
【増えてから減る】
酸っぱい香り(酸類)、甘いローストの匂い(フラン類)
【ほぼ一定】
ナッツ系、グリーン系の香りなど(ピラジン類)
焙煎すると、甘味を知覚させるショ糖などの糖類は、コーヒーの色素と酸味と香りに変わって、成分としてはほとんどなくなってしまいます。
多糖類が熱分解される過程で、低分子の糖類が生成されるという説もありますので、それが微妙な甘味を醸し出しているのかもしれません。もしくは、糖類がカラメル化したときの甘い香りやコーヒー豆の脂質が甘味を感じさせているのか、実のところ、よく解明されていないのが現状です。しかし、この繊細な甘味が日本ではとても好まれています。