『体を暖め、勇気を引き出してくれるこのコーヒーを兵士達に与えよう。
余の作戦と優れた兵士達がいれば、世界は余の手のひらにあるも同然』
軍隊の飲みものにコーヒーを初めて採用したのはナポレオンでした。
ナポレオンがまだ一介の兵士だった頃から、コーヒーはいつも彼の回りにありました。
フランス大革命時代、彼がよく通ったのはカフェ「イタリア」。
ここでは子爵バラス候にかわいがられ、出世の足がかりをつかみました。
1797年、ウィーンに入城したナポレオンは、手にしていたコーヒーカップを床に落とし、粉々になったカップを示して『余は貴殿方の国をこのようにできるのである』と講和条約を拒み続けるオーストリア政府を恫喝し、将軍たちをさらにふるえあがらせたと伝えられています。
そして1806年、ベルリンに入城した彼は、残る最大のライバル・イギリスを標的に大陸封鎖を行います。
イギリスの海上貿易に大打撃を与えようという狙いでした。
しかしその結果は、思わぬフランス民衆からの反発でした。
『我々の愛するコーヒーを返せ!』
フランスが輸入にたよっていた砂糖とコーヒー豆をも、ナポレオンの作戦は封鎖してしまったのです。
なぜか常勝ナポレオン軍の神話は、それ以後消えていきました。
コーヒーを愛した英雄は、コーヒーを敵に回したことで、あと一歩だった夢の実現を打ち砕かれてしまったのかもしれません。
ヨーロッパにコーヒーが上陸してから100年以上を経過し、コーヒーはその薬効作用による広まりから、次第に深い味わいと独特の香りによる愛好者を増していくようになり、政治や文化の檜舞台にも登場するようになったのです。ナポレオンのエピソードは、コーヒーが政治の舞台に登場した代表的な例です。