マロンズコーヒーブログ

夕方以降にコーヒーを飲むと、夜眠れなくなるの?

コーヒーのカフェインが睡眠の質や、睡眠段階のいずれかに影響を及ぼすという根拠はありません。ただし、一部の人では、カフェインを摂ると弱い興奮作用が出ることもあり、眠りにつくのを妨げられることがあります。敏感な人は、夕方以降にはカフェイン抜きのコーヒーを飲むようにするとよいでしょう。

 

コーヒーは二日酔いに効くの?

「二日酔いによる頭痛を和らげたいなら、コーヒーを1杯、飲みましょう。」

二日酔いのときに起る頭痛はアセトアルデヒドと呼ばれる物質が主な原因です。この物質をからだの外に追い出し、脳の血液の循環をよくすれば、やがてつらい頭痛は解消されます。その際、有効なのがコーヒーに含まれるカフェインです。

飲み過ぎた翌朝、頭がズキズキと痛んだら、まずは1杯のコーヒーを試してみてはいかがでしょう。

 

コーヒーには中毒性があるの?

カフェインは、国際疾病分類(※)で中毒物に指定されていません。またカフェインに関する研究でも、依存性や濫用性は認められていません。

※国際疾病分類とは、世界保健機関(WHO)が決めている疾病等の分類です。
「中毒」という言葉は、「習慣性」という表現のほうがより正確な場合にも、しばしば用いられます。コーヒーを飲み続けても、カフェインを長期間にわたって増量する(中毒性物質に特有の性質)ことはなく、適度な摂取を保ったり、調節することができます。ごく一部の人に、急にコーヒーを止めると軽い頭痛のような弱い離脱症状を経験する人がいますが、このような症状は長引くことはなく数日で消えます。

コーヒーを淹れたときの、あのふわっとした香りが好きな人はきっと多いはず。その独特な香りには、人間の脳に働きかける二つの効果があることが分かった。

コーヒーショップに足を踏み入れたときの、なんともいえない香り。自分でコーヒーをドリップするときに湯気とともに立ちのぼるあの匂い……。

コーヒー好きならずとも、心地よい気持ちになるだろう。

そのコーヒーの香りが、人の脳に影響を与えることが分かった。

それもコーヒー豆の種類によって効果が異なるという。

5分間隔でα波を測定し、リラックス効果を検証。

食べ物の中でも好き嫌いが分かれるコーヒーや酒といった嗜好品は『好き』か『嫌い』に分かれますが、これは『香り』の領域なのです。

実験は、20代の女性10人に5分間隔で6種類のコーヒーの香りを数十秒間ずつかいでもらい、その間の脳波を分析するというもの。コーヒー豆はブラジルサントス、グァテマラ、ブルーマウンテン、モカマタリ、マンデリン、ハワイ・コナの6種類。比較対照のために無臭の蒸留水も用意。それぞれ中挽きした豆を90℃の熱湯で抽出した。

 

 

 

α波の出現量が多いのはグァテマラとブルーマウンテン。

マンデリンやハワイ・コナは少ない。コーヒーの種類によって、リラックスできるものとできないものがあることが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実験結果は意外なものだった。

上の図を見てほしい。暖色の部分、つまり赤色や茶色がα波の量が多いことを表している。α波が最も多く出現したのはグァテマラとブルーマウンテン。この2種の香りにはリラックス効果があることが立証されたのだ。

ところが、マンデリンやハワイ・コナではα波があまり見られなかった。無臭の蒸留水と比べても少ない。つまり、コーヒーの香りすべてにリラックス効果があるわけではなく、豆によって度合いが異なることが明らかになった。

「同じコーヒーで、これほど結果に差が出るとは予想していませんでした。理由は分かりません。あるメーカーの協力を得て、コーヒーの成分を分析しましたが、少なくとも800種類もの成分がある。ところが、香りを構成するのは有力な成分ではなく、微量な成分らしいのです。つまり、800の成分の混じり具合によって、香りは大きく変わるのです」

これほどはっきりした差異がありながら、科学的には原因がつきとめられなかった。しかし、実験で、コーヒーの香りが秘めるもう一つの効果が明らかになる。

豆の特徴をよく理解して、用途にあわせて楽しもう。

次の研究で、α波ではなく「P300」という脳波に着目して実験を行った。

P300とは、人の集中度を図る指標のこと。正しくは「情報処理能力」と呼ぶ。物事を見極めたり聞き分けたりするときに脳は活発に活動するが、そのときに出現する脳波がP300である。コーヒーの香りによって、P300がどう変わるのかを調べた。

ブラジルサントスやマンデリン、ハワイコナは情報処理のスピードが速い。これらの香りには脳の働きを活発にする効果があるといえる。

ただし、この実験では被験者にヘッドホンを装着してもらい、「低い音に混じって高い音が聞こえたら、なるべく早くボタンを押す」という課題を与えた。つまり、脳の中ではこのとき「まれに聞こえてくる高い音を認知して、それをより分ける」という作業が行われているのだ。

 特に注目していたのは、P300が出現するまでの「潜時(せんじ)」。潜時とはヘッドホンを通して高い音が聞こえてきてから、脳が「高い音が聞こえた」と認知するまでの時間を指す。つまり「情報処理の速度」である。

結果は上の図の通り。α波の実験とは逆の傾向を示した。

潜時が短く、P300が早く出現したのはブラジルサントスやマンデリン、ハワイ・コナだった。ブラジルサントスやマンデリン、ハワイ・コナは脳の働きを活性化して、情報処理のスピードを高める効果があることが分かった。ところが、最初の実験でα波が多く出現し、リラックス効果が高いと認められたグァテマラやブルーマウンテンは、P300の出現が遅かったのだ。

コーヒーの香りが脳に与える効果は豆の種類によってかなり異なる。リラックスしたいとき、集中力を高めたいときなど、目的によって使い分けるとよい。

リラックス効果と脳の働きを活性化する効果を兼ね備えるのは不可能だ。

二つの実験結果に基づいた「使い分け」を提唱している。

上図は、それぞれの豆の特徴を分かりやすく視覚化したものだ。用途に応じて、飲むコーヒーの種類を選ぶ参考になるだろう。

日本人がもっとも恐ろしいと思う病気。それはきっとがんだろう。何気なく飲んでいるコーヒーには、がん細胞の活動を抑える働きがあるという。

がんは老化とともに必然的に発生する病気とされている。ところが、食生活やライフスタイルを改善することによって、たとえ発がんリスクの高い遺伝素因や基礎疾患をもっていたとしても、がんは予防できるともいわれている。それは近年の医療の発達によって明らかになってきたことだ。

細胞ががん化する過程と、悪性化していく過程におけるコーヒーの作用について本格的に調べはじめる矢ヶ崎氏。動物実験を開始するにあたり、コーヒー試料は上記のように市販のインスタントコーヒー粉末を用いた。それによって、抽出効率や成分の違いを気にすることなく、再現性の高い実験が行えた。

また、肝臓がん(肝がん)の細胞は国産の呑龍系(Donryu strain)ラット(注1)に由来するがん細胞「AH109A」を使用。細胞培養系でもよく増殖するうえ、呑龍系ラットの腹腔内や皮下に戻すと盛んに増える性質がある。

まず、インスタントコーヒー粉末をAH109Aに直接添加した。平たく言うと「ふりかけた」のだ。すると、AH109Aの浸潤も増殖も両方抑える効果があることがわかった。(図3)

※クリックで拡大します。

この結果を受けて、矢ヶ崎氏はもう1つ実験を行った。それはより生体に近いやり方である。
「細胞にコーヒーをふりかけたら、たしかに浸潤も増殖も抑えました。しかし、実際には動物の体の中で細胞にコーヒーが直接ふれることはありません。ですから有効成分が体の中に入って、活性を保った状態で移行するのかどうかを調べたのです」

この種の細胞培養実験では牛の血清を使うのだが、その代わりに「コーヒーを飲ませたラットの血清」を培地に入れて増殖を抑えるかどうかを見た。

まず、ひと晩絶食させた呑龍系ラットにインスタントコーヒーの粉末を溶かした水溶液を飲ませて、2時間後に採血して血清を取り出す。その血清をラットの細胞に添加した。

実は、消化管を通ると腸や肝臓で代謝を受けて壊されてしまったり、有効な構造が隠されたりして効かなくなるケースもあるのだが、先の実験と同じように浸潤も増殖も抑えたのだ。(図4)

※クリックで拡大します。

「ラットへの投与量125㎎/㎏を人間に適用できると仮定して、体重60㎏の人間で7.5g。コーヒーでおよそ2〜3杯分ですから、日常的に飲める量でしょう」

ラットを使って、コーヒーという食品ががんに効くことを確かめた。そこにはなにかしらの有効成分があるはずだが、この段階ではまだわからない。
矢ヶ崎氏は「では、コーヒーのどの成分が有効なのか」と考え、次の実験に進んだ。

悪さをする活性酸素を、コーヒーが食べてしまう?

コーヒーに含まれる主な成分としては、カフェイン(10〜20g/L)、キナ酸(3.2〜8.7g/L)、トリゴネリン(3〜10g/L)、クロロゲン酸(0.02〜0.1g/L)、カフェ酸、クエン酸(1.8〜8.7g/L)、リンゴ酸(1.9〜3.9g/L)などがある。このなかで矢ヶ崎氏が最初に着目したのはクロロゲン酸だ。次いでカフェ酸とキナ酸。なぜならカフェ酸とキナ酸が結合したポリフェノール化合物がクロロゲン酸だからだ。

実験の結果、クロロゲン酸、カフェ酸、キナ酸は、肝がん細胞の増殖は抑制しないけれど浸潤は抑制することがわかった。ただし、クロロゲン酸を直接添加すると抑制効果は高いが、クロロゲン酸の構成要素であるカフェ酸、キナ酸を添加してもクロロゲン酸ほどの効果はなかった。

次に、浸潤を抑制するメカニズムを調べてみた。(1)「なにもしない」、(2)「活性酸素を入れたとき」、(3)「活性酸素とコーヒーを一緒に入れたとき」という3通りの方法で、細胞の中の活性酸素の量を測定したのだ。

「活性酸素には浸潤能(注2)を上げる性質があります。そこで培地に活性酸素を投入して、浸潤する細胞数を調べました。すると活性酸素で上がった浸潤能が、インスタントコーヒーを添加するとグッと下がったのです」

簡単にいうと、活性酸素とコーヒーを一緒に添加するともとの状態に戻るということは、つまりコーヒーのある種の成分が活性酸素を「食って」しまっていると考えるのが自然だ。

この結果からコーヒーには抗酸化能(注3)があって、活性酸素を捕捉するから浸潤を抑制するのではないかと考えられる。

培地にインスタントコーヒーを直接添加した場合と、インスタントコーヒーの粉末を溶かした水溶液を飲ませて取り出した血清を細胞に添加した場合と2通りの実験を行ったが、どちらも結果は同じだった。

また、トリゴネリンにも浸潤を抑える効果があることがわかっている。ただし、トリゴネリンの場合は、抗酸化能以外のメカニズムが働いているようだ。また、浸潤を抑える成分は確定できたものの、増殖の抑制成分はまだわかっていない。

 

これらの研究結果は細胞レベルとラットを使った動物実験に基づいたもの。したがってすぐに人間へ転用できる…とはならないが、日々摂りこんでいる食品の中からがんやそのほかの病気を二次予防する物質を見つけようという研究には、大きな意味がある。

 血管内部の出血を止めるためにできる血栓。メカニズムが狂うと心筋梗塞などを引き起こすが、コーヒーには血栓を溶かしやすくする働きがあるそうだ。

第四位の脳血管疾患で年間11万9000人が死亡している(数値は厚生労働省「平成25年人口動態統計の年間推計」による)。 第二位の心疾患では「心筋梗塞」が、第四位の脳血管疾患では「脳血栓症」の割合が高い。

つまり「血栓による病気」がかなりのパーセンテージを占めているのだ。

血栓はさまざまな疾病を引き起こすが、コーヒーは血栓を溶かすメカニズムに対してよい影響を与えるという研究がある。

この実験に取り組んだ倉敷芸術科学大学 生命科学部須見洋行教授に話を聞いた。

健康を保つために、食べ物の成分に着目。

須見教授の専門は、わかりやすく言うと、食品成分に備わっている特殊な生理機能を、より積極的に活用しようと生まれた「機能性食品」の研究である。

たとえば、栄養価が高いだけではなく、人体にとって薬的な作用をする納豆などの食品を研究している。

疾病の治療というよりも「予防」に重きを置いているのだ。

それらはすべて「血液凝固―線溶」にかかわるテーマに基づいている。

血液凝固と線溶については説明が必要だろう。

血液の中には、血液を固まらせる「凝固因子」と、固まった血液を溶かす「線溶因子」が存在する。人間の体は、出血を起こすと凝固因子が出血した血液を固めて出血を止める。

そして、固まった血液を溶かして、またもとの血管に戻すための酵素群が働く。この酵素群が線溶因子である。

血小板が損傷した部分に集まり、粘着・凝集してつくられた血栓を溶かすため、プラスミノーゲンアクチベーター(ウロキナーゼ、t-PAなど)がプラスミノーゲンをプラスミンに活性化する。それによって血栓が溶けて血流が再開するのだが、このバランスが崩れると前述したようなさまざまな疾病を引き起こす。

今回は、プラスミノーゲンアクチベーターのうち、t-PAという酵素の活性化にコーヒーが役立つという話である。

心地よく感じる食品は、t-PAの分泌を促す。

t-PAやウロキナーゼは、心筋梗塞や脳血栓を起こした患者に投与される。かつてはウロキナーゼが主流だったが、現在はより効果が高いt-PAの血栓溶解剤に置き換わっている。

本来t-PAは体の中で自然につくられるもの。

アメリカでウロキナーゼとt-PAを研究していた須見さんは、帰国後にウロキナーゼやt-PAの分泌を促す食品中の物質を研究する。

つまり食べ物の摂取してt-PAの分泌を増やし、血栓症を予防しようというのだ。

須見さんは、納豆に含まれる血栓溶解酵素「ナットウキナーゼ」を発見した実績があり、酒やコーヒーを研究しているのはその一環である。

t-PAを生み出すのは血管内皮細胞だが、須見さんは人間が「心地よいな」「いい匂いだ」と感じる食べ物を摂取したときに、t-PAが盛んに分泌されることをつかんだ。

「ブランデーを飲んでもt-PAは出ます。また、パンやお菓子を焼いたときはなんとも言えない、いい匂いがしますね。これはピラジン化合物という香り成分で、これにもt-PAの分泌を促す効果がありそうです」

実験に用いたのは、10種類のコーヒー。

生のコーヒー豆10種類の熱水抽出物がt-PAの分泌に与える影響を調べた。その結果、コーヒーの熱水抽出物はt-PAの分泌を促すことがわかった。特にブルーマウンテンや雲南、キリマンジャロなどでは水と比べておよそ29~35倍の高い数値を計測したのだ(表)。

数値が大きいほどt-PAの放出活性が高い。ブルーマウンテンや雲南、キリマンジャロはコントロール(水)と比べて約29〜35倍の高い数値を計測。コーヒーの熱水抽出物はt-PAの分泌を促すことがわかった  ※図表はすべて須見洋行教授より提供

 実験に用いたコーヒー豆は、岡山県の企業から入手したもの。それを200度で40分間焙煎し、10倍量の沸騰水を加えて1分間加熱抽出する。さらに濾過したものを凍結乾燥して得た粉末をイオン交換水(水)で0.5%のコーヒー溶液としてHeLa(ヒイラ細胞=ヒト子宮頚がん細胞)に与え、48時間培養してt-PAの分泌量を調べた。
「コーヒーはt-PAの分泌を促すだろうと予測していましたが、種類によってこれほど大きな差が出るとは思っていませんでした」

コーヒーはt-PAの分泌に効果があることがわかったが、別の側面からも調べた。コーヒーは熱湯や水で抽出するものだが、エタノールやメタノールで抽出した場合も比べたのだ。結果は、水で抽出したほうがt-PAの分泌をより促すことがわかった。
「コーヒーをアルコール類で抽出するほうがより多くt-PAを分泌するのではないかと考えていました。ところが結果は水で抽出したものがいちばんよかった。これも予想外でした」
須見さんの予想をいい意味で裏切る結果が得られたのだ。

t-PAの分泌に効果的なコーヒー。

コーヒーの中のどの成分がt-PAの分泌に効果があるのか気になるところだが、須見さんはそれもきちんと調べている。

クロロゲン酸、カフェインなどコーヒーの主要7成分を選び出してt-PAの分泌を見たのだが、いずれの成分にも活性は認められなかった。ところが、雲南とブルーマウンテンにはt-PAの分泌を促す活性が見られた(図1)。

クロロゲン酸、カフェイン、キナ酸などコーヒーの主要7成分にt-PA分泌の活性化は認められなかったが、雲南とブルーマウンテンは活性が見られた

「コーヒーの作用物質として知られるクロロゲン酸やカフェイン、キナ酸などには効果が見られませんでした。むしろ熱水で抽出したふつうのコーヒーのほうがよい結果が得られました。とても苦労した実験でしたが、報われませんでしたね」

須見さんは苦笑いするが、コーヒーの主要成分だけを取り出しても効果が得られなかったという結果は興味ぶかい。つまり、個々の成分はともかく、総体としてのコーヒーを飲んだほうが、t-PAの分泌を促すことを裏付けるものだからだ。

須見さんは、30mlに濃縮したコーヒー(雲南)を成人男女12人に飲ませて血液を測定する実験も行った。すると、2時間後の血漿からELT(ユーグロブリン溶解時間)が21・2%短縮することが認められている(図2)。

30mlに濃縮したコーヒー(雲南)を成人男女12人に飲ませて血液を測定。2時間後の血漿からELT(ユーグロブリン溶解時間)が21.2%短縮することが認められた。ただし、血液の凝固系の変化には有意差はなかった

 成分こそわからないものの、コーヒーを飲むと線溶系が高まることは明らかだった。つまり、血液循環がよくなることが期待される。

血小板凝集を抑える、コーヒーの成分。

次に、須見さんは、コーヒーが血栓をつくりにくくする効果について測定した。すると、水の凝集率65.5%に対してコーヒー(雲南)の熱水抽出成分は48%となり、わずかながら血小板の凝集を阻害する働きが見られた(図3)。

コーヒーが血栓をつくりにくくする効果を測定すると、コントロール(水)の凝集率が65.5%なのに対し、コーヒー(雲南)の熱水抽出成分は48%を示し、わずかながら血小板の凝集を阻害する働きが見られた。またコーヒーの主要成分を投与すると、特にトリゴネリンヒドロクロライドが6%、キナ酸が11%と高い阻害活性を示した

 興味を引かれるのは、コーヒーの主要成分を投与した結果だ。トリゴネリンヒドロクロライドは6%、キナ酸は11%とそれぞれかなり高い阻害活性を示している。
また、コーヒーやパンを焼いたときの香りに代表されるピラジン化合物にも、血小板の凝集を妨げる効果が見られたという。

「特に『2‐エチルピラジン』はアスピリンと同じくらいの強い活性を持つことがわかりました。アスピリンは頭痛薬などに使われていて、血液をサラサラにする効果がありますが、それを凌ぐほど強いのです。これは今回初めてわかったことで、驚きました」

これらの実験結果から、コーヒーの成分は、それ単独ではt-PAの分泌は促さないものの、血小板の凝集を抑制する効果はあることがわかった。
「コーヒーがt-PAの分泌を促すことは明らかです。結果を考え合わせると、ブルーマウンテンや雲南、キリマンジャロなどにはまた別の物質が含まれているのでしょう。コーヒーはおもしろいですね」

 

今回はコーヒーの種類によって大きな差が出たものの、須見さんはあまり気にしないでよいと考えている。
「今回は10種類の豆すべてを1分間抽出で統一しているからです。抽出時間を長くするとまた変わるかもしれません」

 結論は

①ある種のコーヒーにはt-PAの分泌を促す効果がある(成分はわからない)

②コーヒーの成分には血小板の凝集を阻害する働きがある、という2点である。

悪いことばかりではない。血栓のもつ大事な役割。

そもそも須見さんがコーヒーに着目したのは、自身がコーヒー好きであることも一因だった。大学生時代はさほど飲まなかったが、アメリカに留学したとき、コーヒーを飲みながら雑談する文化に触れる。たとえ短い時間でも、他の研究生に交じって話をすることで、その日のコミュニケーションがとても円滑になることを知ったという。

「私の下手な英語でも、コーヒーを飲みながら話をすることで相手の反応がよくなったんです。そこで毎日飲んでいたら『コーヒーっておいしいな』と感じるようになりました。今でも毎日4~5杯は飲んでいますよ」

須見さんは、コーヒーやパンを焼いたときに出る香り成分(ピラジン化合物)やアロマエッセンスなども研究対象としている。
「インスタントコーヒーの封を切ったときにもいい香りがしますね。ああいった匂いも研究しています。香りによって狭心症や脳梗塞が予防できるかもしれませんよ」

最後に、血栓について忘れてはならないことがある。血栓はえてして悪い面ばかり強調されるが、本来は「血を固める」という大事な機能であるということだ。出血しても血が固まらなければ人は死んでしまうので、血を固める機能はとても高度なものだそうだ。血を固めるメカニズムは1秒単位で働くが、血栓が溶けるのはゆっくりと進む。そのギャップが疾病につながるのだ。須見さんはこう言った。

「強いストレスがかかると、血液の凝固機能が高まります。つまり、血液が固まらない状態とは、人体にとってある程度余裕がある状態なのです。ブランデーやコーヒーを味わいながら飲むときは、リラックスしているケースが多いはずですね。そういった余裕がある状態だからこそ、t-PAの分泌も進むのです」

ストレスがあると血栓ができやすい。ならば、やはり「リラックスしてコーヒーを飲む」という習慣をつくることが大切なのだろう。

 コーヒーと認知症のことについて、コーヒーを飲むことが認知症の予防に効果があるのではないかと言われはじめているそうだ。
「コーヒーのカフェインが関係しているのではないかとの仮説を立てている研究者がいます」

今回の研究でもコーヒーと脳小血管病以外に「脳室」について調べていた。

脳室とは脳脊髄液がつくられる脳内の腔のこと。脳室ではまるで泉から水が湧くように脳脊髄液がつくられているが、なんと1日に500ccも産生しており、1日に3回入れ替わるという。

脳室の縮み具合を調べたところ、コーヒーを常に飲んでいる人は脳室の縮みが少ないという結果が出た。
「脳室が縮むと、脳の中のいわば水である脳脊髄液が溢れます。水が増えると脳の実質のボリュームが減ってしまい、認知症につながる恐れがあります。脳脊髄液が脳のなかに溢れると水頭症になりますが、対象者が少なくて水頭症とコーヒーの相関関係は調べられませんでした」

脳脊髄液とカフェインにこだわるのは、なんらかの理由で脳脊髄液が減少し、頭痛やさまざまな全身症状が現れる「脳脊髄液減少症」の治療にカフェインを用いるからだ。

「脳脊髄液が減少したとき、なぜかカフェインが効くといわれています。カフェインが脳脊髄液の代謝に関係がありそうなので、カフェインを多く含むコーヒーとの関係を調べてみたいものです」

 

食事とコーヒーで、高血圧を予防。

脳卒中の危険因子には高血圧、糖尿病、高脂血症、心房細動、喫煙、飲酒などがある。そのなかでもっともよくないのは高血圧です。

「血圧は、収縮期血圧(上)が130以下、拡張期血圧(下)は80以下が好ましいですね。通常は140/90以下とされていますが、脳卒中に関しては一段低い数値が求められます」

血圧が高くなる要因として(1)食生活、(2)加齢、(3)体重が挙げられる。とくに体重は1kg増えるごとに、血圧の上が1.6mmHg、下が1.1mmHgほど下がる。つまり10kg増えると血圧は10以上高くなる計算だ。

「歳を重ねると基礎代謝が落ちるので、同じ食事を食べていても体重は増えていくので血圧も上がります。体を動かす習慣がないと、血圧は確実に上がります」

高血圧を予防するにはどうしたらよいのか。お勧めは「地中海式ダイエット」だ。
「野菜、果物、穀物、魚介類を多く摂るようにします。料理はオリーブオイルを使って、お酒は赤ワイン。血圧を下げるにはバランスのよい食事です」

地中海式ダイエットはテレビで紹介されているが、脳卒中の学会でも推奨している。そのほか、塩分を抑えたダイエットもよいと言う。
「こうした食事と合わせてコーヒーや緑茶を飲むことが、高血圧の予防につながると思います」

また、意外に思うかもしれないが、高血圧の抑制にはチョコレートが効くとされている。
「カカオに含まれるポリフェノールがよいといわれています。コーヒーのなかにチョコレートを入れる飲み方がありますよね? コクがあっておいしいので、そういったことも試してみてください」

 

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